ISSUE 2

2017.09.04

3度目の来店が命運の鍵

1000軒、いや2000軒?、25年余のキャリアの中で、さまざまな店と関わってきたが、店にとって大切なことは都市と地方では全く違うのを実感する。例えば、東京、ニューヨーク、パリなどに限って言えば「話題を集める、注目される」ということがまず一番の条件。メトロポリタンたちは常にトレンドに敏感で、日々刺激によって磨かれている。国内外の人気店が上陸!、新しいスタイルを提案!といったキーワードが強い引力を持っていて、これさえクリアすれば「一度行ってみたい」という人だけで、数年はもつ(場合が多い)。

しかし、地方都市の場合、状況はちょっぴり過酷だ。もちろん地方人だって、トレンドには敏感だが、「一度行ってみたい」という人の数は東京の比ではない。母集団が少ないということは複数回来店してもらえるかが命運をわける。「一度行ってみよう」と訪れてくれた人の中から「いい店だったから、今度は誰かを連れてこよう」と思う人に数がギュッと絞られる。さらに、2度目の訪問の場合、正直、初めての時より、店を見る目は冷静になっている。人の記憶とは勝手なもので、ファーストインプレッションが良いと、それを記憶の中でちょっぴり美化する傾向がある。いい店だった、もう一度行けば、以前よりも増して楽しい時間がそこにあるに違いない、という期待値が高まってしまう。かなりハードルはあがると言っていいだろう。ここが最大の難所だ。地方店の場合、3回来店させることができるかが、命運をわける。

以前食べた料理に同じ感動をするとは限らないし、気持ちもクールダウンした状態での来店が前提。そこで最大の力を発揮するのが、ホールスタッフの力だ。人は人によってテンションが大きく上下する。初回の来店を覚えてもらっていると、それだけで、いいお店!という気持ちになるが、そうはいかない場合も多いだろう。「ご予約ありがとうございます」でも、「お料理、お口に合いましたでしょうか?」でもいい。マニュアルではなく、「気」が通じるコミュニケーションの心地よさが、お店の評価をぐんと底上げする。当たり前のことと言われればそれまで。でも、これこそが3回目の壁を乗り越える力なのだと思わずにいられない。

text by Chie
中野智恵
編集者・ライター。キャリア25年で、全国誌や企業広報誌の編集やライティングなどに携わる。特に飲食店は長年取材を続け、ライフワークと化している。2017年より10planning&coordinationのディレクターとして、豊富な企画編集実績をベースにブランディングに携わる。