3

2018.01.15

おもてなし王国への第一歩とは?

2020年の東京オリンピック開催決定以来「おもてなし」という言葉が連呼されるようになった。お店も、宿も、地方自治体も、国をあげての「おもてなし!おもてなし!」のオンパレードだ。その反面、飲食店をはじめとするサービス業の人手不足は深刻。あちこちで「人手がなくてランチをやめた」「営業自体が危ぶまれる」という声が聞こえてくる。

そこにはサービス業に対するステイタスの低さがあるような気がする。今や日本の料理は世界トップレベル。もちろん、世界には未知なる圧倒的美味がたくさんあるはずだ。しかし、“食の平均値”において日本に勝る国はないのではないか?今日は和食、明日はフレンチ、昼はイタリアンで夜は中華、世界のあらゆる料理がピンからキリまで楽しめ、そのアベレージが高いという国を日本以外に私は知らない。一方で、その料理を提供するサービスはといえば、どうだろう?一流と呼ばれるレストランでも、あそこのサービスは素晴らしい!と感激できるのはごく一部だ。一流シェフの名前は列挙できても、一流のホールスタッフの名はそう多くは挙げられない。

以前、服部幸應氏に話をうかがった際、「昔は、窃盗や強盗といった事件の犯人に飲食業の人間が多く、料理人がそんな目で見られていた。だからこそ、もっと料理人の素晴らしさ、社会的地位を高めたかった。料理の鉄人、もその一環」と話されていたが、ホールスタッフはどうだろう?サービスに対してお金を払う感覚が薄い国、という社会的背景もあるが、オーナー自ら「ホールの人間にお金をかけたくない」「アルバイトで十分」など、サービスのプロを育てる気がないという意識を持っている人も多いのではないか?

一流と呼ばれる店だと、客は引き算でしかその店を見ない。丁寧なサービスはできて当たり前、できていないと即クレームにつながる、しかし、想像以上のサービスが受けられると、即贔屓客、となる。一流と名のつく店ではなくても、いい店にしようと思うなら、料理の見直しと同じくらいサービスを見直すべき。集客を左右するのは、サービスだと言っても過言ではないのだから。

では具体的にどうするか?そこが「悩みのタネであり、飯のタネ」でもあるところ。まずは、プロとしてのサービスマンがいるのなら、他の店に移られる、もしくは独立を目指される前に、待遇を向上すべきだ。まだ、そのレベルでなければ、プロにすべく、プロに学ばせることだ。自分が教える、というシェフもいるだろうが、それは基礎が身についてから。世の中にはそういった類の研修は山のようにある。どこに行かせるかを判断し、投資するのがオーナーの仕事だ。あとは意識改革あるのみ。働くプライドこそ、労働の糧となる。自分の店で働いてくれることに対しての感謝はもちろん、自分が働く意味、意義、こうなりたいというビジョンを伝えているのか?気持ちが通っているのか?この人のためにがんばろうと思わせることができているのか?が大切。それなくして、誰もついてこないのである。

そうは言っても…と思う人もいるかもしれない。だが、そこは知恵次第。とある老舗イタリア料理の店では、シェフ希望で入ってきても、まずは必ずホールを一定期間経験してからでないと、厨房に入れないシステムをとっている。「いずれ独立した時に、お客様にサービスできないと困るだろうから」というオーナーシェフの親心かららしいが、この店のホールスタッフは全員レベルが高い。店が忙しい時はシェフ自らがホールに出て、できたての料理を運ぶ。シェフの愛や仕事への情熱を肌で感じるから、店に心地いい緊張感があふれる。つまり、きちんとしたお手本にもなれず、愛も注がず、お金も時間もかけず、「サービス向上」の命を出すなど、厚かましい話なのである。

そうしてスタッフが育てば、店の評価は自ずと上がる。店の評価は料理×サービスでしか上がらないシンプルな掛け算だ。高級フレンチでもラーメン店でもそれは変わらない。名物ホールスタッフが増えていくことが、おもてなし王国・日本の第一歩のような気がする。

text by Chie
中野智恵
編集者・ライター。キャリア25年で、全国誌や企業広報誌の編集やライティングなどに携わる。特に飲食店は長年取材を続け、ライフワークと化している。2017年より10planning&coordinationのディレクターとして、豊富な企画編集実績をベースにブランディングに携わる。