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2018.05.30

広報と女将

“美味しければ、人が来る”。ただそれだけを信じている時代はもう終わったのだと思う。
老舗であろうが、新店であろうが、“知って”“贔屓にして”“思い出して”もらわないと、店の存続に関わる時代だ。
とある老舗フランス料理店は、馴染み客だけで十分、と長年発信なし、取材拒否という姿勢を貫いてきたが、贔屓客も歳をとり、月2回の足が1回となり、徐々に回数も減り、、となり、、若い世代のフレンチ離れもあって、とうとう看板を下ろすことになった。
そんな類の話は、決して少なくない。
やたら告知ばかりしている店もどうかと思うが、今の時代、なんらかの発信を続けていくというのは、必須だと思う。
その仕方はそれぞれだが、老舗こそいつもカッコよく、時代を捉えた柔らかな姿勢を持ち続けないと存在価値が目減りしていく。

そんな「発信」の一翼を担うのが「広報」。
集客のためにいかに店の情報を告知していくか、できるだけお金もかけず、効率よく、メディア戦略を立てられるというのがプロの広報。しかし、個人経営であろうが、会社経営であろうが、名ばかりの「広報」が多い気がする。

先日も海外展開しているとある有名店に取材を申し込んだが、広報担当者宛てにメールをしてくれと言われたものの、何日経っても全くレスがない。困って会社に電話をしても、直接メールでやりとりをしてくれ、の一点張り。制作期限も迫り、仕方がないので取材を諦め企画を変更したところ、取材候補日の前日に、明日は大丈夫です、と悪びれることもなくレスがあり、当日は取材立ち合いもなし。これは極端に呆れたパターンのように思えるが、決して少なくないというのが現実。

メディアの機嫌をとる必要は全くないが、レスが遅い、決断できない、調整しようとしない、など、広報以前に仕事人としてどうなの?と思ってしまう局面に出会うと、公私ともにもう一切お付き合いしない、という気持ちになるのが人の常。
とある新進気鋭のリゾートホテルの取材では、一流のカメラマンによる撮影に当初心踊っていた広報が、時間の経過とともに、疲れからか明らかに機嫌が悪く、対応が悪くなり、取材クルーが呆れていた。もう、その有名雑誌にその宿が取り上げられることは2度とない。広報を侮るなかれ、なのである。
ちなみに、なぜか広報担当者というのは女性が多い。店や施設の顔として、マスコミ対応するのに女性がいいだろう、というくらいの気持ちなのだろうか?

店の顔、といえば女将。女将というのは不思議なもので、贔屓客がつくかつかないか、想像以上に大きく左右する。
店の味がどんなに気に入っていようとも、そこのご主人がどんなにいい人だとわかっていても、女将が醸し出す雰囲気が好まれない場合、極端に贔屓客を逃す。以前、毎日鮨でも構わないという食通の知人が、独立したばかりの若手職人の店を訪れた際、給仕をする彼のお嫁さんがとにかく愛想がなく「味はいいんだけどねー、あれじゃ、可愛がってもらえない。足が遠のくね」と話していたがまったくその通りだ。鮨や和食という限られた空間の中で、濃密な時間を過ごすような店だと、居心地の良さを作れるかは人次第。自分の人生のパートナーが、ビジネスパートナーとなるとは限らない。待遇や自分を支えてくれるという面で、妻を女将に、と考えるのは安直。その資質は冷静に見極めてもらいたいものだと切に願う。

text by Chie
中野智恵
編集者・ライター。キャリア25年で、全国誌や企業広報誌の編集やライティングなどに携わる。特に飲食店は長年取材を続け、ライフワークと化している。2017年より10planning&coordinationのディレクターとして、豊富な企画編集実績をベースにブランディングに携わる。